「予防」でも「準備」でもない「遊び」

 初めて投稿させていただきます。理事で法人長野支部の宮尾彰です。

 12月初旬に、監事の大塚正之先生からのお誘いにより、『共創学会』という学会でぷれジョブの活動について発表させていただくことになりました。

 この半月ほど、西さんと協力して発表のための原稿を準備して来ましたが、そのプロセスで再認識したことがありましたので、それをここに書かせていただきます。

 私は、四半世紀(25年間)障害者福祉の分野に身を置いて仕事をして来た人間です。

 その最後の10年近くは『発達障害』と呼ばれる生きづらさを抱えた皆さんのお手伝いをさせてただく役割でした。小学校、中学校、高校、専門学校、大学、小児科医、精神科医、児童相談所、教育委員会、保健師、福祉係、精神保健福祉センター、ハローワーク、障害者支援センター、相談支援専門員、児童デイサービスなど、かなり多業種の関係者や専門家とご一緒する機会が多かったです。

 乳幼児期から療育期には、保健師さんや保育士さん、療育の専門家、リハビリスタッフといった方々が、「早期発見」「早期対応」のために法定検診(1歳半検診・3歳児検診)の結果を受けてお仕事をされています。これは、お子さん一人ひとりの将来を見越して、可能な限り正確にその子の生得的な資質や生きづらさを把握し、集団生活で予想されるストレスや困難に備えることを主に母親に伝えることを目標にしています。これが、「予防」と言われる働きと考えられます。

 小学校、中学校、高校と学齢期を経て、「社会人」として自立した生活を送るために必要とされるさまざまな能力を身に付けることが大きな課題となって来ます。殊に『発達障害』と呼ばれる生きづらさのある成人期の方々にとっては、ハローワーク(公共職業安定所)や障害者就業・生活支援センター、ジョブコーチ、職業訓練施設などの専門家による就労支援が求められることになります。これが、資本主義経済で動いている現代社会に適応するための「準備」と言われる働きと考えられます。

 2003年に当時中学校の先生をしていた西さん(現一般社団法人ぷれジョブ代表理事)がこの活動を考案した頃、ちょうど日本では障害者の雇用促進施策が重視され始めました。

このことが、その後今日までぷれジョブが辿ってきた歩みに大きくかかわっています。

 倉敷市を中心にぷれジョブが広がり始めた当初から、西さんからの呼びかけに応えて各地で組織を立ち上げ、活動を起こされた方々(その多くは障害のある子どもの保護者でした)の間には、活動の理念や方法について実にさまざまな受け止めや理解があったようです。

 これはまったく無理なからぬことですし、前述のように世の中が「就労支援」の方向に舵を切った矢先の発案でしたので、さまざまな思惑や企図を持ちながらこの活動にかかわりを持つ人たちも生まれて来ることになりました。

 こうして、怒涛のような活動の伝播を経て、ぷれジョブは全国各地で数多くの子どもたちを中心に、活動にかかわる地域の市民に数知れない物語をもたらしながら、それぞれの推移を辿って来ました。

 昨年9月に、それまで任意団体だった『全国ぷれジョブ連絡協議会』を発展的に解散し、新たに『一般社団法人ぷれジョブ』が創設されました。

 法人設立から1年を経て、ようやく理事会の運営も軌道に乗りつつあることと、公共事業にも着手し始めたことを、ここに謹んでご報告させていただきます。

 同時に今、ぷれジョブ本来の理念について、あらためて振り返り、原点に立ち還る必要を感じています。そこで大切になるのが「遊び」なのです。

 文頭で記した「予防」や「準備」においては、私たちの『現在(今生きる時間)』が何らかの意味で『未来(いつか生きるであろう時間)』のための犠牲となる可能性を孕んでいるように思われます。「この子の将来のために」「社会に出て困らないために」「もっと能力が身に付くために」という願いや期待はもちろん当然ですし、大切です。そして、こうした一人ひとりのための配慮や支援が行き届くことにより、安心した生活も成り立ちます。

 ただ、しばしばそれが行き過ぎてしまったり、最優先とされるがゆえにその目標や課題に縛られて自由を失ってしまうことが散見されるのも事実ではないでしょうか?

 ここで、西さんがその初期から大切にされ、しばしば講演で引用される『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』に謳われた古来の智恵が見直されることになります。

 

 遊びをせんとや生まれけむ


 「ぷれジョブは遊びです」。いきなりこう言われると、もしかしたら戸惑いを覚える人の方が多いかもしれません。でも、本来ぷれジョブが持っている醍醐味(だいごみ)がここにあるのです。障害のある子どもたちが持っている脆弱性(バルネラビリティ)は、自ずからかかわるおとなから柔らかい心(思いやり・仏性)を引き出してくれます。舞台装置としてのぷれジョブでは、子どももおとなも分け隔てなく、関係のヒエラルキー(階層)もなく、平らになって一緒に時間と空間を分かち合うことができます。

 言い換えれば、ぷれジョブは『現在(いま、ここ)』を『未来』のための犠牲にすることなく、十全に楽しむ(ENJOYする)ための貴重なチャンスなのです。

 梁塵秘抄の作者・後白河法皇もまた、私たちは何のために生まれて来たのか?何のために生きているのか?を問い続け、考え続けた人間だったのでしょう。

 「予防」にも「準備」にも増して、今私たちには「遊び」の時間と空間が必要なのです。

 次回以降は、敗戦後の日本に生まれた「遊び」の詰まった児童詩誌『きりん』についても皆さんのご紹介したいと思います。どうぞお楽しみに!(2020.11.26)



 

 

 

 




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