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執筆者の写真miyao0107

『きりん』を読む・1 

更新日:3月24日

                                       №1

第1巻第1号:1948(昭和23)年2月号


表紙絵:脇田 和 挿画:小松益喜      表紙裏には、もくじと竹中郁による詩「星座楽」 

特選詩数=5 詩数=25 綴方数=2 



         図1.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図2.          (エディターズミュージアム所蔵)



         図3.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図4.         (エディターズミュージアム所蔵)



解説

図1.井上靖の依頼を受けた脇田和が担当。浮田さんも創刊号表紙絵の印象をのちにラジオ

   深夜便で感慨深く語っておられる。

図2.もくじのすぐ下に詩の選者竹中郁の詩。星座の図が描かれ、次頁の「二月の星たち」

   につながっている。まだ、子どもの詩の投稿が少なく、作家による読み物が多い。

図3.はじめて選ばれた特選詩のひとつ。二色刷り印刷で、藍色のフォントが目を引く。

   浮田さんによれば、画家の小松益喜が詩を読んでその場で挿画を付したという。

図4.尾崎書房社主の尾崎橘郎によるあとがき。「世界一美しい雑誌」(井上靖)に寄せる

   熱い思いがつづられている。奥付の旧仮名遣いも懐かしい。定価は20円とある。



~内容の紹介~

 

「ろうか」


 ろうかよ

 朝晝とふいてやる

 ふいてやったらうれしいか

 へんじはないが

 僕からみたらうれしそうだ

 きたない足で

 人間にあるかれて

 だまつているろうかよ

 きたないろうかよ


 愛媛県上分小学校四年 宮内 博昭 



みなさんの詩 竹中郁 井上靖


 宮内君の『ろうか』はろうかについての心やりが人一倍にすなおでやさしく、書き方にその心やりの美しさがでているとおもいました。子供のこころはいつも正直でほんとうのことが書けるところが尊いのです。うその作りごとをいくら上手にかいても、それでは力のある詩はできないのです。力というのは強いコトバや強いかざりコトバでだせるものではありません。正直にかんじたところを他人の氣のつかない書き方でかくと、それが力となつてあらわれるのであります。


 詩をつくるには、まず第一にかきたいと思うものをよく見つめてみることです。そこに湧く「こころね」がコトバになると詩なのです。



【宮尾の読後感】

 戦後間もない時代に詩人らが子どもに向けて編集した『きりん』には、江戸から明治を経て市井の市民の内に保たれていた「品格」が感じられた。

   



第1巻第2号:1948(昭和23)年3月号


表紙絵:脇田 和 挿画:田川勤次      表紙裏には、もくじと星座の図

特選詩数=6 詩数=21 綴方=2



         図1.        (エディターズミュージアム所蔵) 




         図2.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図3.          (エディターズミュージアム所蔵)



解説

図1.創刊号と同じく脇田和による。色味を換えてあるが、図柄は同じ。どこか大正ロマン

   の香りを残すかのような品格がただよう。

図2.前回に続いて、星座の図が描かれている。とても啓蒙的な雰囲気がただよい、大人が

   敗戦後新しい気持ちで子どもたちに知識を与えたいと願った気持ちが伝わってくる。

図3.この小学1年生の女の子の素朴な一編の詩を、のちに浮田さんは懐かしく語っておら

   れる。初期の詩作品の「グレードの高さ」がその後14年続いた、とも語られた。



~内容の紹介~


「キノコ山のユーレン」

 発刊からわずかに遅れて編集に参加し、その後もっとも長期間にわたり『きりん』を支え続けた恩人足立巻一(詩人)による初めての読み物。ユーレンとは幽霊のことで、物語には満州からの「引揚者」の姿と、彼をめぐる子どもたちの心の揺れを克明に描いている。足立

自身、戦争で負傷した経験を持ち、その痛ましい記憶が「ユーレン」に託されている。


あとがき 尾崎橘郎 

日本を新しく立て直してゆくみなさんの、ほんとうの力になるものは、知識と教養とであります。


【宮尾の読後感】

 足立の作品に強い印象を受けた。『きりん』が発行されたのが、先の太平洋戦争終結からわずか3年であったことの意味をあらためて考えた。浮田さんにも満州から帰国した実兄が

おられたことを考えると、当時若き編集者浮田青年は、この記事に何を思っただろうか?




第1巻第3号:1948(昭和23)年4・5月合併号


表紙絵:吉原治良 挿画:井上覚造      表紙裏には、竹中郁のエッセイ「野の音 町の音」。

特選詩数=8 詩数=17 綴方=2




         図1.        (エディターズミュージアム所蔵)



         図2.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図3.        (エディターズミュージアム所蔵) 



解説

図1.浮田さんと吉原治良が出会う契機となった重要な表紙絵。芦屋の自宅兼アトリエに、

   井上の依頼を受てこの一枚を受け取りに行った際、まだ油絵具が塗れていたという。

図2.もくじの下には竹中郁のエッセイ。尾崎の伝手で愛媛県の小学校からの寄稿があった

   他は、まだ関西圏でも知られていなかったため、子どもの作品のページは少ない。

図3.妻鳥小学校は、創刊からしばらく『きりん』の誌面を支えた小さな詩人たちを何人も

   擁していた。挿画の井上は、この年に吉原と共に芦屋市美術協会を設立した画家。



~内容の紹介~

「ありと少年画家」

 『きりん』では長年竹中郁が詩の選者を、坂本遼が綴方の選者を務めた。これはその坂本が初めて寄稿した子どものための物語。前号の足立の作品同様、坂本自身の戦後の焼け跡で

の痛切な実体験を反映した内容。露天商で買った飴の包み紙に身寄りのない戦災孤児がありの絵を描き続けるという筋で、坂本の子どもに寄せるまなざしの原点が感じられる。


繪をつのります (あとがきの頁に)

 みなさんのかかれた繪を送つて下さい。くろいスミかインクでかいて下さると一番よろしい。「きりん」にのせたいので、なにをかいてもよろしい。大きさも自由です。

送りさき 大阪市北區梅田町三五、尾崎書房 きりん係。



【宮尾の読後感】

 やはり吉原の「縄跳びをする少女」は166冊の表紙絵の内別格の逸品。その後浮田さん

の生涯を決定した。坂本の作品からも、当時の空気が強烈な印象で伝わって来る。子どもの作品はまだ少ないため、作家による連載物が続く。浮田さんの編集者としての仕事は、この時期にはまだ誌面には顕著に現れない。この号から価格が5円上がって1冊25円となる。




第1巻第4号:1948(昭和23)年6月号


表紙絵:吉原治良 挿画:吉原治良      表紙裏には、竹中郁のエッセイ「野の音 町の音」。

特選詩数=4 詩数=18 綴方=1




         図1.        (エディターズミュージアム所蔵) 



         図2.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図3.         (エディターズミュージアム所蔵)



解説

図1.前号と図柄と色味は同一できりんの文字と月の数を換えてある。浮田さんによれば、

   戦後間もない頃の画材は質が劣悪で、この原画はボロボロに壊れてしまったという。

図2.もくじの周りには、星座の図。佐伯氏の連載が続く。表紙と挿画の双方が吉原治良

   とある巻は大変貴重であろう。編集部と吉原の距離がそれだけ近かったのだろう。

図3.戦後すぐに数年だけ現れたと言われる半抽象の画風を反映した挿画。とても子ども

   向けとは思えない。子どもだから、という意識が画家になかったのかも知れない。



~内容の紹介~

 巻末近くに、「私の童詩指導」と題された東村鈴子(妻鳥小学校訓導)による文章が寄稿されている。前に述べた愛媛県の妻鳥小学校の現場教員の声を、創刊4冊目にして掲載する編集部の意識の高さには驚く。子どもの詩はまだ少ないが、徐々に京都市内の小学校からの詩の投稿が増えている。



【宮尾の読後感】

 前号での編集部からの呼びかけに応じてか、この号の裏表紙には子どもの絵「お風呂」がカラー印刷されている。芦屋市精道小4年田中修君の作品。評者のことば(竹中郁)とあるのを読んでも、初期の縦長サイズの時代の『きりん』では浮田さんの役割は少なかったことが推察される。2号続けて同じ作品を表紙絵に掲げたことは『きりん』史上他に例がない。



あとがき

 ようやくシリーズの初回をお届けすることが出来た。縦長の『きりん』は、まだ井上靖の影響が多く感じられ、入社したての浮田さんは、さまざまな地味な仕事をこなしていたものと想像される。けれども、ラジオでもお話されたように、この雑誌を売り歩くことを誇りに思っておられたであろうことは、1冊1冊を丁寧に読む作業を通して容易に想像できる。


                             (2023年9月15日)

※浮田さんの誕生日に連載「『きりん』を読む」初回をお届けできたことも記念になった。次回は今月末にお届けする予定。乞うご期待。


謝辞:「『きりん』を読む」連載に当り、長野県上田市のエディターズミュージアムによるご配慮に、心から感謝いたします。  ⇒Editor'sMuseum (editorsmuseum.com)





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