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執筆者の写真miyao0107

『きりん』を読む・2

更新日:3月24日


第1巻第5号:1948(昭和23)年7・8月号


表紙絵:村尾絢子 挿画:増田雅子

表紙絵下には井上靖のエッセイ「あすなろう」

特選詩数:7 詩数:37 綴方:3



         図1.        (エディターズミュージアム所蔵)  



         図2.        (エディターズミュージアム所蔵)  



         図3.       (エディターズミュージアム所蔵)   



         図4.         (エディターズミュージアム所蔵)

 

 

解説

図1.村尾絢子と増田雅子による表紙絵と挿画がやわらかく抱擁的な印象を与える。村尾は

   女性初の従軍画家として上海でも制作?増田は『明星』にも寄稿した歌人?要調査。

図2.筆者も、小学校で『あすはなろう』という歌詞の唱歌を教えられた記憶がある。敗戦

   直後、井上が読者に伝えようとした思いがどんなものであったか、に思いを馳せる。

図3.この詩の作者、白石欣也少年については、のちに『きりん』を振り返って記した文章

   でも井上が感慨深く記している。初期『きりん』のヒットメーカーの一人であった。

図4.縦長の時代の裏表紙にはこのように竹中郁の選んだ子どもの絵画作品が記載された。

   後に、編集者として浮田さんの眼が選んだ作品群との『質』の違いが興味深い。



~内容の紹介~


 吉岡たすくによる児童劇「山の子供たち」では、父親がシベリアやフィリピンで戦死した子どもたちが描かれる。足立や坂本による物語と同様に、戦争の傷痕が作者と読者との間で

強い現実感を以て共有されていた時代の空気を痛感させられる。後にテレビの教育相談番組でも有名となるが、この時期の彼の仕事として貴重な資料であろう。


 誌面の内容について触れれば、特選詩7作以外に、準特選詩を含める37の詩作品が記載されており、『きりん』に学校現場から寄稿される作品の量と質がこの時期顕著に変化していることが分かる。編集にかかわったメンバーの悦びが想像されるようだ。



【宮尾の読後感】

 この時期になると、愛媛県や大阪市や京都市にある複数の学校現場から一定した数の作品が毎号寄せられ、それらが選ばれているのが分かる。『きりん』が、名実ともに当時最新のメディアとして機能し始めていたことを顕著に示していることが感じられる。




第1巻第6号:1948(昭和23)年9月号


表紙絵:伊藤継郎 挿画:伊藤継郎     

もくじの下には、井上靖のエッセイ「どうぞお先きに!」

特選詩数=6 詩数=27 綴方=3




         図1.      (エディターズミュージアム所蔵)



         図2.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図3.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図4.         (エディターズミュージアム所蔵)



 

解説

図1.伊藤の表紙絵には、子ども向けとの意識は微塵も見られない。格調の高い一流の絵画

   作品である。この誇りが若き浮田さんの心に響いたことは間違いないと思われる。

図2.哀切な文章。井上の読者への信頼が漲っている。この文章から、戦没画学生の遺作を

   集めた野見山暁治、窪島誠一郎による『無言館』を思い起こす人もいるだろう。

図3.この一編も、初期『きりん』を代表する作風の詩。「きんやさん」が、白石欣也君で

   あることが分かるのも面白い。上分小学校は、どんな雰囲気の学校だったのだろう。

図4.芦屋市立岩園小学校は、後に浮田さんも足しげく通った学校として知られる。竹中が

   作品に寄せた詩にも、子どもの表現に触れた詩人の悦びが溢れている。



~内容の紹介~

 この号には、大人の手による読み物の数が少ない。それだけ子どもたちから寄せられる作品の質と量が充実して来たことが推察される。渡辺佐の大作曲家の生涯シリーズは継続。

 「中学生の詩」に特化した誌面作りは今号が初めて。また、坂本の代わりに足立巻一が綴

方の選評に当っているのは珍しい。内容ではないが、この号から送料が2円に増額された。



【宮尾の読後感】  やはり、井上による巻頭の文章の印象が強烈である。旧制三高で英文学を講じた深瀬基寛(英文学研究家)が戦争で亡くした教え子の林伊夫を悼んだ「人はみな草のごとく」という名文を思い起こす。当時『きりん』にかかわった人間には、誰にも同じ喪失感があったのではなかろうか?

 表紙の9月号の「9」のレタリングが秀逸。

第1巻第7号:1948(昭和23)年10月号


表紙絵:須田剋太 挿画:須田剋太

表紙絵下には足立巻一のエッセイ「333333」

特選詩数:7 詩数:27 綴方:3




         図1.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図2.         (エディターズミュージアム所蔵)



        図3.        (エディターズミュージアム所蔵)



         図4.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図5.         (エディターズミュージアム所蔵)



解説 図1.須田剋太はその初期から『きりん』に深くかかわった画家の一人である。浮田さんが

最も愛した表紙絵『夕陽の中を走る汽車』を描いた少年も須田の教え子だった。 図2.足立による『にんじん』を書いたルナールの小品の翻訳紹介は、やや唐突な印象でも

   ありながら、どこか当時の浮田さんが持っていた前衛思想に響き合って興味深い。 図3.詩の扱うテーマと選者の評と挿画とが相まって当時の時代の空気を映している誌面。

   ここでは子どもと大人が対等な意識で向き合い、同じ課題を共有している。 図4.こちらは打って変わって子どもらしい素朴な内容の詩。添えられた須田の描線の潔さ

   にも瞠目する。まったく子ども扱いしない画家の態度に敬服する。 図5.こちらも戦争から立ち上がろうとする時代の空気を鋭敏に感じる一枚。とても子ども    とは思われない観察眼と描写力。流行歌謡がラジオから聞こえて来そうだ。 ~内容の紹介~  大人による読み物では、この号に坂本遼による続編『ヒヨコと少年画家』が掲載されているが、前編ではアリばかり描いていた同じ少年が別の居場所に移って、今度はヒヨコばかり描いている。後に理論社時代まで長期にわたり連載が続く坂本作品のエッセンスを感じる。竹中は雌鶏を手に入れたつもりが雄鶏だった、という『にわとり事件』を寄せている。 【宮尾の読後感】  一号一号が出る毎に、敗戦後の社会や人々の生活もさまざまな形で動き始めている様子が誌面の端々から読み取れるように感じられる。ちなみに、テレビなどで当時の流行歌を聴くと『きりん』の誌面から感受する情緒と同質のニュアンスを感じることがある。 第1巻第8:1948(昭和23)年11月号


表紙絵:山崎隆夫 挿画:山崎隆夫

表紙絵下には井上靖のエッセイ「くもの巣」

特選詩数:8 詩数:15 綴方:3



         図1.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図2.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図3.         (エディターズミュージアム所蔵)



         図4.         (エディターズミュージアム所蔵) 解説

図1.後に浮田さんがラジオで語られたところによれば、この画家による『きりん』の題字

の鋭角なレタリングが踏襲されることとなったという。

図2.井上はこの短い文章で、くもの巣を扱う子どもの日常的な行為の意味についてかなり

   ストレートな問いかけを発している。当時子どもたちは、これをどう読んだろうか?

図3.この一編も、白石欣也君の作品。竹中の選評に、彼の詩に対する姿勢、あるいは詩論

   とも呼べる内容が現れている。見事な挿画から、画家の詩への深い理解を感じる。

図4.この裏表紙の絵には、竹中が批評を付しているが、この作品などは、後に浮田さんや

   『具体』の作家たちの興味を引いたタイプの絵画性を感じる。 ~内容の紹介~  この号から、竹中郁が「教科書の中の詩」と題した文章を寄せることになる。当時実際に学校で使われた教科書の中の詩人による作品を取り上げ、時にはシビアに酷評する。これは彼自身が『きりん』で子どもたちの率直な言葉の使い方に触れて影響を受け、詩に向き合う姿勢を自ら問い直していたことの証しとも考えられる。 【宮尾の読後感】  この号では、浮田さんも絶賛した山崎の表紙絵と挿画の潔さと、詩作品との親和性に強く心を惹き付けられた。若き浮田さんは、毎日このような画家と子どもたちとの真剣勝負に触れながら編集を続けていたはずで、それがどれだけ鍛錬につながったかは計り知れない。 あとがき

 シリーズの2回目をお届けする。月が明けて来週の7日より、千葉県西船橋のギャラリーK&Oにおいて『自画像』と題された浮田要三の展覧会が開催される。この間、『きりん』の精読作業と並行して、展覧会の企画にかかわらせていただくという貴重な時間を過ごして来たが、私の内で「浮田要三と『きりん』の世界」は、底知れぬ魅力を増している。                              (2023年9月30日)

※次回は10月に中旬届けする予定。尾崎書房の経営難により、サイズが小さくなる。乞うご期待。

謝辞:「『きりん』を読む」連載に当り、長野県上田市のエディターズミュージアムによるご配慮に、心から感謝いたします。  ⇒Editor'sMuseum (editorsmuseum.com)





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