top of page

子どものまなざしと詩

執筆者の写真: miyao0107miyao0107







 これらは、1957(昭和32)年6月号の『きりん』の児童作品欄に選ばれた詩です。毎号『きりん』の巻頭には「特選詩」という数編の作品のみの特別な枠が設けられており、数々の名作がそこに掲げられましたが、上の三つの詩は特選詩ではありません。

 足立巻一さんがどこかで、「竹中先生が特選詩に選ばれなかった作品の中にも、良い詩がたくさんある」という趣旨の文章を書いておられましたが、きっとそうでしょう。ちなみにこの6月号には、特選詩以外に44編の詩が選ばれて掲載されています。

 初めて読んだ先週の金曜日以来、これらの詩のもたらす強い印象が頭から去りません。

 それは、毎日テレビやラジオやネットから入って来るこの国の衆議院選挙に躍るコトバの空虚さに、私自身が他人事ならず自信を無くしかけていることにもよると思います。

 これらの詩を味わっていると、元来私たちの言葉には根が生えていて、然るべき土壌から養分を吸い上げているはずであることを、突き付けられるのです。

 それぞれの詩が、私が何か解説めいた文章を添える余地も無い、完璧な形をしています。

 1957(昭和32)年、この国で何があったかをインターネットで検索してみました。

 5月にコカ・コーラが初めて日本で販売されました。6月21日には岸信介首相と米国のアイゼンハワー大統領が首脳会談で「日米の新時代来る」との共同声明を出しました。8月には東海村原子力研究所に初めて「原子の火」が点火されています。

 いつの時代にも、子どものまっすぐなまなざしの傍らで大人によるさまざまな愚行が繰り返されて来たのでしょうか?



 おなまえ かいて


      作:ゼイナ・アッザーム(Zeina Azzam)

      訳:原口昇平



 あしに おなまえかいて、ママ

 くろいゆせいの マーカーペンで

 ぬれても にじまず

 ねつでも とけない

 インクでね

 あしに おなまえかいて、ママ

 ふといせんで はっきりね

 ママおとくいの はなもじにして

 そしたら ねるまえ

 ママのじをみて おちつけるでしょ


 あしに おなまえかいて、ママ

 きょうだいたちの あしにもね

 そしたらみんな いっしょでしょ

 そしたらみんな あたしたち

 ママのこだって わかってもらえる


 あしに おなまえかいて、ママ

 ママのあしにも

 ママのとパパの おなまえかいて

 そしたらみんな あたしたち

 かぞくだったって おもいだしてもらえる


 あしに おなまえかいて、ママ

 すうじはぜったい かかないで

 うまれたひや じゅうしょなんて いい

 あたしはばんごうになりたくない

 あたし かずじゃない おなまえがあるの


 あしに おなまえかいて、ママ

 ばくだんが うちに おちてきて

 たてものがくずれて からだじゅう ほねがくだけても

 あたしたちのこと あしがしょうげんしてくれる

 にげばなんて どこにもなかったって


 ※現代詩手帖 特集「パレスチナ詩アンソロジー 抵抗の声を聴く」から(2024年5月号)



  昨夜(10月25日)『きりん』とも縁のある京都の徳正寺で日本ペンクラブ言論表現委員会主催、思潮社・ブッダカフェ共催により「『わたしが死ななければならないのなら』—-いま、パレスチナ詩を読む@京都」が開かれました。

 私自身はオンラインで参加させていただきましたが、朗読者の一人女優の斉藤とも子さんによる、この作品の鬼気迫る朗読に捕えられました。

 詩の作者、ゼイナ・アッザームは米国在住の詩人です。この一篇は、彼女がCNNの報道した「パレスチナ自治区ガザ地区では、一部の親が、自分たちや子どもが死亡した際の身元確認のために、子どもの足に名前を書いている」というニュースに触れて書かれました。



 子どもが書いた詩ではありませんが、「子どものまなざし」が書かせた詩であることは、まちがいありません。


 「そして政治はこどもがするようにもしもなったらおもしろいだろう。」

 複雑な気持ちでこの意味深な詩行を噛みしめながら、私は明日の選挙結果を待ちます。


※本文に引用した詩の著作権者に連絡が取れておりませんことを明記させていただきます。

                            (2024年10月26日)


【お知らせ】

 前回もご案内しましたが、この度神田神保町の月花舎様で「焼け跡の『きりん』」の発刊を記念して「『きりん』を語る会」を開催していただけることになりました。

 今触れてもまったく色褪せることの無い、子どもたちのみずみずしい感性が生み出した詩や作文や絵画の世界について、日々子どもたちから刺激を受けて若き日を過ごした、のちの現代美術作家・浮田要三の生涯について、じっくりとご紹介させていただきます。

 興味・関心をお持ちの方は、どうぞ下記からお申し込みください。


 

Comentarios


bottom of page