5月8日、大型連休最後の日曜日、秋に予定された「浮田要三と『きりん』の世界」展の準備のために、浮田氏の長女小崎唯さんと盟友嶋本昭三の直弟子猿澤恵子さんが遠方から小海町高原美術館を訪問され、名取館長、中嶋学芸員と打合せを持たれた。
晴れ渡った青空に吹く高原の風は冷気を含んでいたが、会期中の磯谷博史氏の展覧会場をお借りしてのシミュレーションは熱気を孕み、終えて見れば4時間半が経過していた。
会場での相談以前に、作品数は60点から25点に絞られていたが、中嶋さん作成による最新の作品リストを手に、一点一点のボリュームを頭に浮かべながら、お二人は何回も館内の空間と壁面を体感しながらイメージを確定されてゆく。
私は約10年前にもフランス在住の作家ベルナール・トマ氏が参加した企画展で展覧の準備に立ち会わせていただいたことがあるが、今回も一つの展示空間が創造されるまでの濃厚な時間の流れに我が身を浸すこととなった。
浮田さんの作品はとても『強い』ため、たとえ小さな作品でも驚くほど広い空間を必要とする。もし欲張って多くの点数を壁面に展示しようとしても、作品と作品がハレーションを起こしてしまう。春先にオンラインでロジャー・マクドナルド氏※と懇談した際にも、氏は自らの所蔵する浮田作品と壁面空間とのインターラクション(相互作用)の妙について語られた。さらには、作品から作家の建築的な思考を感じる、とも。
唯さんとおもんちゃん(猿澤さんのニックネーム)の内には、今も浮田要三の作品が生きており、何回か展示室を歩きながら対話する内に一点、また一点と、作品の「置き場所」がおのずから決まってゆく。それはとても不思議な呼吸だった。そして、何点かの大きな作品の場所が確定することで、それ以外の作品のあるべき場所が徐々に見えて来るのだ。
このようにして、展示する浮田作品の数と場所がおおよそ見えて来た。
もう一つのテーマは、浮田要三と『きりん』との関係性をどのように展示するかである。
ここにこそ、展覧会の肝(キモ)がある、と言って間違いない。
今回は、児童詩誌『きりん』のオリジナル170冊余を展示する予定であるが、それらの表紙のほぼすべてが、十余年に亘って浮田さんの眼によって選ばれた。
この浮田さんの子どもたちの表現に寄せるまなざしと共感こそが、後に『具体』の創設者吉原治良に「君の選ぶ画はみんな面白いやないか!これだけわかっとるんやったら、自分でも作品創ったらどうや?」と言わしめたのだ。
先ほど、私は作品の「置き場所」と書いたが、それはそのまま、私たちの「居場所」にも通じる。一人ひとりに、しかるべき時に、生きる場所が与えられるのだろう。展覧会では、来館者に「浮田要三と『きりん』の世界」をその存在で感じてもらいたいと願う。
(2022年5月13日)
※佐久市在住の国際的なキュレーター、美術史家。アールブリュッドにも造詣が深く、浮田要三の作品を1点愛蔵される。
現在会期中の磯谷博史氏の展覧会『動詞を見つける』パネルの前で記念写真
リストを手に、慎重に作品の配置を確認する小崎さんと中嶋学芸員のおふたり
第1展示室の広い空間をどう活かすか?名取館長とおもんちゃんも知恵を絞られる。
作品をお借りするためのご挨拶を重ねながら、徐々に展示の内容が見えて来る。
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