私たちは2016年の夏、全ぷれセミナーに山口雅代さんをお招きしました。その後も私たちはゆるやかにつながってきました。
彼女は、2022年9月から小海町高原美術館で開催した「浮田要三と『きりん』の世界」展にはるばる大阪から駆けつけてくださいました。展覧会に合わせて息子さんの思い出を綴ったエッセー集『心がふるえた日』も出されました。
そして2023年7月7日に1955年に出版された詩集『ありとリボン』を復刻した新版を出版されました。
敗戦当時『きりん』の常連投稿小学生だった山口雅代さんのこの詩集を編んだのは、選者のひとりで、当時の第一線の詩人だった竹中郁さん。
これは子どもを取り巻く現在を考えるのに大切な本、戦後間もなく大人が子どもにどう向き合ったのかを知る良い本です。
『きりん』の編集を担った浮田要三さんがそうされたように「人間について考える」ための契機にもなると思います。
法人代表理事 西幸代
わたし
お人ぎょうは
ひゃっかてんに
いくらでも うっているけど
わたしは どこにも
うってはいない
せかい中に
わたしは たったひとりだけ
それに かあちゃんは
わたしを しかる
詩集の紹介
山口雅代さんは、少女時代の『きりん』への詩の寄稿に始まり、編集者の浮田要三さんや選者の足立巻一さんとの長年のお付き合いを経て来られた、いわば児童詩誌『きりん』の生き証人です。
前頁に掲げた「わたし」という詩は、おどろくことに、彼女がまだ小学校に上がる前にお母さんに語ったことばを口述筆記して記録された作品です。この詩を読んだ竹中郁さんは、そこに現れた「自我」や「批評精神」を高く評価して、山口さん親子を個別に訪問されました。
もともと、お母さんが小学校卒業を記念してガリ版で出版した雅代さんの詩集から、竹中さんが詩を選び直され東京の出版社から出版されたのが『ありとリボン』でした。
今回の新版では、詩集の復刻に加えて、雅代さんの「はじめに」と題された前書きと、足立巻一さん、浮田要三さん、黒田清さんによる文章が記載されています。これらの全体から、私たちはこの詩集の成り立ちについて知ることができます。
いつの時代にあっても、子どもの心の純粋さには変わりはありません。浮田さんがかつて語られたとおり、大切なのは、子どもの純粋な心の表出である作品(詩や作文や絵など)に対する大人の姿勢なのです。
どうか、みなさんもこの詩集をお読みいただき、ご感想をお寄せください。
浮田要三研究家 宮尾 彰
推薦します
新版「ありとリボン」に寄せて 小﨑 唯(浮田要三長女)
新版「ありとリボン」は、脳性麻痺という障がいを持って生まれた(天才少女詩人)山口雅代さん(80歳)が、小学校入学前から卒業するまでの詩(口述筆記含)を母ワサカさんがまとめられた、「ガリ版刷りの手作り詩集」から生まれたものです。
その詩集を見た竹中郁先生が編集をされ、「ありとリボン」と名前を付けて出版されました。(1955年)
竹中先生編集の「ありとリボン」を、この度、「『きりん』のこと」足立巻一、「山口雅代さんのこと」浮田要三、「山口雅代さんとの出会い」黒田清(元読売新聞記者)の付録を付けて、新版「ありとリボン」として発刊されました。
この詩集は、必ずや万人の心を深く耕し、生きる歩みに強い勇気を与えてくれると確信しています。
特に心打たれたのは、「山口雅代さんとの出会い」の中に出てくる、雅代さんから黒田清さんに宛てた、ご自身の「生きる指針を得た時の経験」を綴った長い手紙です。
この本は、「はじめに」から始まり、当時の「雅代さんの詩」以外のすべて(あとがき、年譜、付録「きりん」)を自らの心に納めた後に、当時の雅代ちゃんの世界に入られることをお勧めします。
1人でも多くの方の「生きる力」の応援団になれますよう、願っています。